ダイヤの鑑定(実例)
いままでに「この同一性の証明ができてよかった」という問い合わせでこんなことがありました。
ある刑事さんがダイヤモンドのリングを持って来られて、見てほしいという事でした。訳を聞くと、宝石泥棒を捕まえて供述をとると、次々に自供したそうです。驚いた事に、この泥棒、すごく記憶がいいのか、これはどこで盗った、これはどこでと、盗った所をすべて覚えていたそうです。
ある日、裏づけ捜査のため、泥棒が入ったというお宅にいつものように刑事さんが行った時のことです。
盗られた奥様は、全然気付いていなかったのです。
調べてみると確かになくなっている。しかし、刑事さんが持ってきたダイヤモンドとは違うみたい……と、奥様は拒否……
泥棒は「このダイヤモンドで間違いない」……
奥様は「私のダイヤモンドはもっときれい」……
そうこうしている時、奥様は「ハッ」と気づいて鑑定書を提示しました。しかし、刑事さんにはまったくチンプンカンプン。困り果てて、鑑定書に記載していた電話番号に問い合わせて場所を確認後、来店となった訳です。
いろいろお話を聞いている途中、持ってこられたダイヤモンドをみて、奥様が「私のダイヤモンドは、もっときれい」と言われた言葉が私にはすぐに理解できました。
もちろん、一目見ただけで同一だと確信したからではありません。
ダイヤモンドがひどく汚れていたからです。プラチナの枠も傷だらけでした。どうしてこんなに汚れたのか私も泥棒に聞きたいくらいでした。
「つけて楽しんでいたの?」と……
まぁ、それはともかく、私は刑事さんのそのことを何も告げずに鑑定ルームへ行き、まずダイヤモンドを洗浄する事から入りました。
ダイヤモンドが汚れていると、たとえ宝石顕微鏡を使ってもダイヤモンド自体の特徴か、汚れかわからないからです。
ダイヤモンドは親油性といって、油ととても親しみやすい性質があるため、ダイヤモンドの裏側は手に油がつき、そこにホコリがたまり、輝きを失ってしまうのです。
そのため、ダイヤモンドが白っぽくなり、輝かなくなります。
このように感じたら時々洗浄をして下さい。
そうすれば、またきれいに輝きます。
ダイヤの洗浄方法
まず、お湯につけて汚れを浮き上がらせて石鹸などを使用し、ハブラシでゴシゴシするとすぐにきれいになります。
ただし、ダイヤモンドはゴシゴシ磨いてもいいですが、ダイヤモンドをとめている地金の爪がゆるむ可能性があるため、ダイヤモンドが落ちないように洗面器などで受けながら洗ってください。
特に、小さなダイヤモンドがたくさんついている宝飾品は気をつけてください。
話はもどって・・・
……で、洗い終えてから証明の番号とプロットを確認し、同一であること間違いなしとなった訳です。
刑事さんに待ってもらっているついでに加工部の社員がいたので枠の新品仕上げをやってもらいました。
というのは、盗られた奥様はダイヤモンドにグレードの違いではなく、ダイヤモンドの輝きが違うと感じたからだと思ったためです。
暫くして出来上がりました。
プロの手にかかればまったくの新品、美しく輝いているリングが……。
私はさっそく、カウンターに行き、まず「検査の結果、奥様が持っておられた鑑定書の内容と刑事さんが持ってこられたダイヤモンドは同じものです」と言い、先程のきれいに仕上げたダイヤモンドを差し出しました。
「えっ」二人の刑事さんは、2〜3秒経ってから「これが先程持ってきた指輪ですか?」と……。
私は「そうです」と告げると、先ほどお話した内容の事を説明しました。
刑事さんが「間違いない」と言って、ふかぶかと、頭を下げ「ありがとうございます。
大変助かりました。」と言い残し、急いでこの場を後にしました。
私は―――良い事をした。これで宝石ファンがまた増える―――と悦にいっている所へ先程の加工部の社員が、小声で私に言いました。
「あのー料金は……」
「………。」
私も急いでこの場を後にしました。