アメジスト物語
仲間と楽しく飲むお酒、一人でしみじみ飲むお酒、嬉しいとき、悲しいとき、笑いながら、涙しながら・・・人は時としてお酒を友にします。
お酒は、飲める人にとってはなくてはならない相棒なのかもしれません。
しかし、飲み過ぎると「百薬の長」が、一転して「百害あって一利なし」になります。お金はかかるし、体を壊したり、醜態をさらけ出し好きな人に軽蔑されたり・・・
でも、一杯飲めばもう一杯と、ほどほどがきかないのも事実です。
このようにお酒にまつわる失敗をあげれば、枚挙に暇がありません。
ユニークなところでは、ギリシャ神話に出てくる神様の世界でも例外ではありません。
紫色の宝石の代名詞にもなっている二月の誕生石アメジストの語源は、「酔わない・酔わせない」の意からきています。
そこには、酒びたりの神様さえも正気にさせた一人の少女と神様の間に、お酒と宝石にまつわるこのようなお話がありました。
アメジスト物語①
酒の神バッカスは、美しい月の女神ダイアナに好意を寄せていました。
しかし、気の荒いバッカスをダイアナは、快く思っていません。
バッカスは、今夜もいつもの様に月の光を浴び、今年の葡萄酒のできに不満をぶつけながら、一杯もう一杯とお酒を飲み干していきました。それからどれくらい時間が過ぎたでしょう。バッカスを包み込んでいた月の光は、どんよりとした雲に覆われ光が差し込まなくなりました。
酔った勢いもあってかそのときバッカスの心は一変しました。そして、とんでも無いことを思いついたのです。それは、今から出会う最初の人間をバッカスが引き連れているトラの餌食にすることでした。
そこへ運悪くダイアナ神殿に詣でる途中の清純な乙女アメジストが通りかかりました。
「それっ!」
バッカスは、トラをけしかけました。
暗闇が災いしてかアメジストが人食いトラに気がついたのはトラが今にも襲い掛ろうかという瞬間でした。逃げる間もないアメシストは、両手を合わせ女神ダイアナに祈りを捧げました。
アメジストの祈りが女神ダイアナに届いたのか、天からアメジストに向かって一筋の矢を放つかの様に月の光が輝きました。光を浴びたアメジストは見る見るうちに美しい透き通った石になりました。
その光景を目のあたりにしたバッカスは正気にもどりました。 しかし、自分のした愚かさを後悔したところでどうにもなりません。
無言のままバッカスは、石になったアメジストに近寄り持っていた葡萄酒をそっとアメジストに注ぎました。すると、無色の透き通った小石は、バッカスのしたことを許すかの様に注がれた葡萄酒の色に染まっていきました。