ダイヤモンド物語 その3
この日も彼は、悩んでいました。
考えられる全てのこと、手に入る全ての研磨剤。。。
ありとあらゆる手を尽くしましたがとうとうダイヤモンドを削ることはできませんでした。
「いったい何を使って削ればいいのだ。」彼は、つぶやきました。
もう、試すものがないくらい希望が持てないことはありません。
そんな挫折感の中で彼は始めて仕事場を離れました。
あの日、以来でした・・・
仕事場を離れるのは・・・
「フゥー」彼は、ため息をひとつつきました。
しかし、彼は、満足でした。
考えられるすべてのことをやり遂げたのだから。。。
例えダイヤモンドが削れなくても。。。
その瞬間、何かから開放されたように全身の力が抜けるように感じました。
「もう・・いい・・もう。」
そう、諦めかけたとき、ふと視線をそらすとそこに娘の姿がありました。
毎日、毎日そばにいたのに・・・
このとき初めて娘の気持ちに変化があったことにきがつきました。
仕事に没頭するあまり自分を取り巻く人々の気持ちの変化にまったく気づかない彼でしたが挫折感とひきかえに大切なものを得ました。
娘はもちろん自分でも気が付かないうちに町の人々までもが彼を暖かく見守っていたのでした。
自分は、こんなにも愛されていたのか・・。
彼は、そう思いました。それは、彼が今まで経験したことのない感動でした。
「自分は一人じゃない、みんなに支えられて生きている・・」
「みんなが、自分を育ててくれている・・」
そして、そばには娘がいる・・
彼はそのことを、実感したとき気がつきました。
「そうだ!何故、今まで気がつかなかったのだ!人には、人。」
「そして、ダイヤモンドには、ダイヤモンドだ。」と。。。
そして、この物語からわかるように、彼は娘からも町の人からも愛され、支えられました。
ダイヤモンドを削りそして、磨くという仕事を通じて、自分でもわからないうちに、みんなに彼自身が、磨かれていたのでした。
ダイヤモンドが、ダイヤモンドで磨かれる様に人は、人によって磨かれます。
また、その反面ダイヤモンドは、ダイヤモンドによって傷つき。。。
人は言葉で傷つきます。
傷ついた心は、言葉で癒されます。
言葉によってキズつき励まされ、磨かれて人は、成長していきます。
しかし、もし彼が弱くて脆い人間なら、キズついただけかも知しれません。
彼もまた、ダイヤモンドの原石だったのかも知れません。
「えっ!物語の結末は?」
それは、もちろん彼の放った矢が、娘の心を打ち抜きました。
「征服されないもの」を、最初に手にした彼の勇気ある行動は、今でも、ダイヤモンドの中に残っています。